先生からのお便り 2011年12月01日
Dr 「このテープはなぜ貼っているんですか」
お母さん「咳がでているので」
Dr「このテープ“咳止め”ではありませんよ。気管支拡張薬ですよ」
お母さん「・・・・・?」
この数年、くろさきこどもクリニックの診察室でよくある光景です。
皆さん、“ホクナリンテープ”をご存知ですか?喘息で治療を続けているお子さまがいるご家庭では、とても大切な薬です。収縮した気管支を広げる成分がテー プにコーティングしてあり、それを皮膚に貼ることで、成分が皮膚から吸収され、一定した薬の効果が維持されます。飲み薬だと深夜から朝方に薬の血中濃度が 低下し、咳の出やすい時間帯の効果が期待できません。このテープは即効性はありませんが、安定した効果が得られます。
しかし、気管支拡張剤は風邪には効きません。咳止めではありません。このテープが効くということは、ただの風邪ではなく、お子さんにとってよいことではないのです。
近年、このテープが乱用される傾向にあります。ウイルス感染などを契機に一時的に喘息様の症状を呈した場合にとても重宝した印象が残り、少し咳がでただけ でも、余っていたテープを咳止めとして貼ってしまう傾向にあります。眠っているときにも貼れます。友人に「良く効く咳止め」としてプレゼントできます。兄 弟間、あるいは親子間でも貼れます。その結果、さまざまな問題が生じます。くろさきこどもクリニックで実際にあったケースは、お婆ちゃんに処方された大人 用のテープ(2mg)を1歳前の赤ちゃんに貼って受診したご家族がいました。赤ちゃんに使う量の4倍量にあたります。赤ちゃんは、不穏な状態で、脈拍が1 分間に200を超えて、つらそうな状態でした。必要な人には“薬”ですが、必要のない人にとっては“毒”になります。
お願いです。このテープを安易に貼らないでください。聴診をしないで、咳止めとして処方する医師も一部いるようですが、個人的には許すことはできません。きちんとした診察のなかで、必要と判断された場合のみ、是非ご使用ください。